病院にやってきたホームレスに苦戦した医師たち

公開日: : 最終更新日:2015/10/08 医療に関する記事

年齢不祥、髪は脂とホコリでべとべと、おまけに目にツーンとくるほどの異臭を漂わせた、典型的なホームレス。深夜の救急センターには、実にさまざまな人間がやってくる。木枯らしが吹きすさぶ、11月末の深夜。山手線の駅前に建つ、ある総合病院の救急窓口に、ふらりとひとりの男が現れた。なんのご用ですか?受付は、ハンカチで口をおさえながら強気で応対した。だがホームレスは全くひるむ様子を見せない。それどころか、酒を飲んでいたら、急に腹が痛くなって、イテテテテと、酒くさい息で必死に病状を訴える。

応対に出た受付の事務員は、一瞬たじろいだが、ひと目で(ははーん、これは駅構内の寝ぐらにありつけなかったんだな)と、察知した。その病院は駅のすぐ前にあるので、厳寒の中、凍えたくないホームレスが目をつけるのも無理はない。しかし、当然のことながら病院は宿泊所ではない。

病気といわれては放り出すわけにもいかない。しかたがないから患者を中へ通す。一刻も早く出ていってほしい、と願いつつ、医師は消え入りそうな声で診断を下した。ヒサンなのは、診察にあたった医師だった。患者、がベッドに横たわると、アンモニア臭が部屋中にたちこめる。息をすると気絶しそうで、もはや酸欠状態の一歩手前である。どこも悪くはなさそうですよだが、それを聞いても患者は納得しない。

レントゲン技師は覚悟を決め

イテテテテと、腹をおさえてのたうちまわるばかりで、お引き取りになる様子は毛頭ない。じゃ、レントゲンでも撮りますか痛いというならしかたがない。患者は、ついにレントゲン室まで送られることになった。けれども、待てどくらせど、患者はカメラの前に現れない。レントゲン技師は覚悟を決め、悪臭の権化である服を脱ぎ捨ててやってくるはずの患者を待った。

そして2時間ほど過ぎたころ、「やめた・・・」。こみあげる吐き気と戦い続けたレントゲン技師、遠くなっていくホームレスの背中を、ただ呆然と見送っていた。レントゲン室の中でえんえん思案に暮れていたらしい患者は突然、そうつぶやいたかと思うと、服を着込んでレントゲン室からトコトコと出ていってしまったのだった。窓のないレントゲン室では、その後一週間、彼の残した「かおり」、がしっかりしみついていたということである。

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