小さな村の診療所に赴任してきた女医の奮闘

公開日: : 最終更新日:2015/10/08 医療に関する記事

・医者の仕事もところ変われば

なにしろ村にたった一つの診療所。同じ大学病院の外科に勤務する夫に代わり、取るものもとりあえずやってきた次第であるが、院長である彼女の義父が病に倒れたため、雪深い東北の寒村のある診療所に、東京の大学病院からK女医が赴任してきた。実は、彼女の専門は麻酔科。長いこと主任を務め、末期がんの手術には立ち会ったことはあっても、こんな外科も内科も一緒くたにした、しかもほとんど病気とはいえない患者の診察をするのは初めての経験である。

彼らにしてみれば科なんて関係ない。ただ医者に見てもらえばいい。診療所には、実にさまざまな患者がやってくる。風邪、神経痛、腹痛、切り傷、ヤケド。年寄りから赤ん坊まで。

ある日、うら若き乙女が診察にきた。ものすごいシモャケで、足が痛くて歩けないという。見ると、親指が真っ赤に腫れ、ツメが肉に食い込んでまくれ上がっている。処置に困った、ろうばいするK女医。ど、どうしょう。なんと乙女は苦痛にゆがむ顔で、先生、ひと思いに抜いちゃってくださいと言う。ツメを抜くなんて一度もやったことないのに。

とりあえず痛み止めの麻酔を注射

とりあえず、痛み止めの麻酔を注射し、ここ一番の名セリフ今日はこれで様子を見ましょうで切り抜けた。その晩さっそく入院中の義父に電話すると、やり方は婦長に聞いて、抜きたいというなら抜いちゃいなさい。あっさり。そんなあ。もっとちゃんとアドバイスしてよ。

乙女の顔はカーテンの向こう、見えるのは足の先だけである。とうとうツメを抜くことになった。恐る恐るツメのまわりにメスを入れる。診療所生活30年の婦長は顔色一つ変えず、小声で指示する。先生、そんなんじゃダメです。もっと深くザクッザクッと。

なんとか切れ目を入れ、ペンチ様の針子ではさんでツメを引っばるが、これが抜けない。先生、もっと力を入れて、グッと!と婦長のゲキが飛ぶ。乙女の足の血はドクドク、K女医の汗はダラダラ。これ以上は引っ張れない~と、ふと気が遠くなりそうになったところでツメは抜けた。患部を見なくてよかったわね。血だらけの切り口を思い出して、K女医、また胸が悪くなる。村の医者と患者の信頼関係は、どうやら持ちつ持たれつお互いさまで、育っていくようだ。

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